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木造軸組み工法
住宅にはいくつかの工法があります。工法とは構造を構成する材料とその組み方のことです。普及しているものとしては、木造軸組み工法の他、2×4工法や軽量鉄骨プレハブ工法、鉄筋コンクリートパネル工法などがあります。中でも木造軸組み工法は伝統的な大工が建てる工法として普及しています。構造的な特徴は柱と梁により骨組みを組むことです。日本の歴史的建築物と似ている部分もありますが、奈良や京都の歴史的建造物で使われる伝統木工法とは区別されています。日本の木造建築は古くから柱に梁をかけ渡すことで組み上げられてきました。柱には太い材料が使われ、それを水平材の土台・足固め・差し鴨居・通し貫・梁と桁で固めました。伝統木工法と言われるこの工法は、構造力学では木造ラーメン構造に分類されます。伝統木工法は、古くは飛鳥・奈良時代から昭和の初期まで、大工棟梁により継承されてきました。地震や風雨をものともせず、メンテナンスが良ければ千年以上の耐久性を示す、日本が誇る建築工法が伝統木工法なのです。一方、現代の住宅に使われる木造軸組み工法は歴史が浅く、主に戦後に使われだしたものです。木造軸組み工法は大学教授などの学識経験者によって旧住宅金融公庫の仕様として開発されました。以降、建築基準法の木造規定にも標準として採用され、一般に普及しました。柱と梁を使う点では伝統木工法に似ていますが、足固めや差し鴨居によって接合部を固めることなく、土台と基礎を緊結している点や通し貫の代わりに筋違いを使っている点などで異なっています。筋違いを耐震要素とする木造軸組み工法は構造力学ではトラス構造に近いのですが完全ではなく、不安定構造に区分されます。不安定構造とは構造的に力を伝えられない構造で、モデル的には耐震性を持っていません。それでも現実にはなんとか地震に耐えているのは、モデルとは異なる接合部の剛性や、仕上げ材の耐震性によるところが大きいのです。どうしてこのような不完全な工法が建築基準法の標準となっているかと言うと、戦後の混乱と日本人が取り入れた西洋文化の未消化が原因していると考えられています。西洋建築に見られるトラスは斜材を組み合わせたものですが、西洋の建物で用いられる斜材は壁のすべての面に及びます。窓が少ない西洋の建物では壁のすべてに斜材を入れることでトラス構造が成立し、立派に建物を支えています。一方、日本の木造軸組み工法は戦後のバラックを補強する目的でつくられました。戦後の焼け跡に建てられた応急建築は柱と梁だけで簡易的に作られ、バラックと呼ばれました。バラックは地震に弱く、台風で簡単に吹き飛ばされてしまう弱い建物です。そのままではまずいので、簡単に強度を高められる対策として柱と柱の間に斜材を補強する方法が採用され、現在の筋違いの元となりました。しかし、高温多湿の中で暮らす必要のある日本の住宅は開放性が高く、壁が少ない構造です。西洋建築のように斜材を連続させることが難しく、トラス構造が構造力学的に成立しない不完全なものとなりました。それが現代の木造軸組み工法です。初期の筋違い工法が耐震性に問題があることは、数度の大地震を経て専門家の知るところとなりました。しかし、建築基準法を管轄する旧建設省は筋違い工法の不備を認めず、別の方法で木造住宅の安全性を確保する手段を選びました。それが住宅性能表示制度による耐震等級です。耐震等級1は現行の建築基準法で定める程度の耐震性を示し、耐震等級2は建築基準法で想定する地震の1.25倍の大きさの地震にも耐える耐震性を示します。耐震等級3は建築基準法が想定する地震の1.5倍の大きさの地震にも耐えることを示しています。耐震等級3を獲得するためには建築基準法で定める筋違いの必要量よりも多い筋違いを設置しなければなりません。耐震等級3を取得した住宅は東日本大震災や熊本地震の揺れでも大きな被害は出ず、概ね安全な建物であることがわかりました。しかし、伝統木工法の頑強さと比べると、見劣りする工法であることには違いありません。2×4工法や軽量鉄骨プレハブ工法は木造軸組み工法と比べると初期の耐震性は高いと言えます。2×4工法は多くの壁パネルで支えられているので地震に強く、軽量鉄骨プレハブ工法は軽いのに加えて標準的な構造計算がされているので耐震性があります。しかし、2×4工法や軽量鉄骨プレハブ工法は木造軸組み工法と比較して耐久性が低い欠点があります。2×4工法は木材に合板を張ったパネルにより荷重を支えますが、パネルは多数の釘により形作られています。すなわち、釘が錆びることで強度が落ち、釘周囲の木材が腐ることでも弱くなるのです。軽量鉄骨プレハブ工法は薄い軽量鉄骨でできているので、錆びに対する弱点を持っています。さらに、木造軸組み工法は全国の工務店で施工可能で増改築も容易なのに対して、2×4工法や軽量鉄骨プレハブ工法は簡単に増改築ができません。木造軸組み工法はどの業者でも施工可能なオープン工法であるのに対し、軽量鉄骨プレハブ工法はハウスメーカーが独自の特許を持つクローズド工法なのです。クローズド工法は一般に高い性能を持ちますが、その会社でしか施工できない欠点があります。以上の理由から、現在お勧めできる住宅の工法の第一は木造軸組み工法となっています。住宅性能表示制度の耐震等級3を取得することで、地盤さえよければ大きな地震にも耐えることができます。伝統木工法を現在の建築基準法の元で建てることも不可能ではありませんが、1年以上かかる特別な申請と、通常の1.5倍の工事費がかかることからお勧めはしていません。